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国際相互理解促進事業報告

◆【4】北方圏交流新時代―新千歳‐ヘルシンキ線就航に向けて ヨンネ・レヘティオクサ アジア・オセアニア地区 営業統括本部長 フィンランド航空 営業統括本部(以下、レヘティオクサVP)に聞く 

 

 調査研究部 森内 壮夫

 

 フィンエアーが、北海道と欧州を結ぶ直行便を冬期間限定で就航する。欧州と北海道がつながるのはKLMの撤退以降実に17年ぶりになる。2019年12月5日から2020年3月27日までの運行で、北海道からの往路便が毎週金曜、新千歳空港を11時半に出発しヴァンター空港に14時に到着。ヘルシンキからの往路便は毎日曜日ヴァンター空港を17時に出発し新千歳空港に翌9時に到着する。実質的には8時間程度のフライト時間を見込んでいるという。以前筆者がエアアジアXで新千歳空港からクアラルンプール直行便を利用した時も8時間のフライトだったが、同じ8時間でヨーロッパに行くことができるとは驚きである。それほどヨーロッパが遠いというイメージが染みついているということだろう。

 

 直行便がどれくらい便利になるのかということを実感するために、筆者は今回の取材で11時成田発のフィンエアーに乗った。朝4時に起き、5時過ぎに家内に空港直行バスの停留所まで送ってもらい、7時に新千歳空港に到着し、8時の成田便に乗り込む。9時半に成田に到着し出国手続きを済ませ11時発のヴァンター空港行のフィンエアーに搭乗。15時過ぎにヴァンター空港に到着するころにはかなり疲労困憊している。ところが直行便では7時起床、8時出発で十分間に合うことになる。旅疲れに見舞われる復路は、往路便以上のメリットをさらに感じるに違いない。忙しいビジネスマンであればあるほど、短いフライト時間の恩恵にありがたみを感じるだろう。

 

 フィンエアーの本社はヘルシンキ中央駅から電車で30分、ヴァンター空港から一駅のAviapolisという駅にある。Avi=鳥≒航空の、Polis=都市ということで、駅一帯にはフィンランド航空の関連企業が集積している。取材当日は日差しが強い晴天で、フィンエアー本社社屋の屋号の文字が青空に白く映えていた。

 

 

 今回、北海道就航を実質的に決定したといってもよい、ヨンネ・レヘティオクサ アジア・オセアニア地区 営業統括本部長兼ヴァイス・プレジデント(VP)には、超多忙なスケジュールを無理して時間を作っていただき「北海道は、これからの大切なパートナーなので」ということから30分だけという約束で取材に応じてくれた。フィンエアー東京支社は彼の管轄となる。

 

―――お忙しい中、お会いしていただきありがとうございます

 

 レヘティオクサVP―こちらこそ。北海道からようこそ。歓迎する。私も先週東京から戻ったばかり。北海道の直行便就航準備で忙しい。ただし、北海道は特に大切なパートナーだ。ご足労感謝する。

 

―――ヨンネさんはアジア通とお聞きしましたが

 

 レヘティオクサVP―私は中国エリアのマネージャー時代に香港に3年住んでいたことがある。日本には何度か訪問したことがあるが、長期間住んだことはない。フィンエアーにとって、アジア、特に日本は最も有望なマーケットだ。フィンエアーと日本の関係は1983年にヘルシンキ―東京便を飛ばした時が始まりだ。以来、95年に大阪、2006年に名古屋、16年に福岡と路線を拡大してきた。フィンランド人は日本人と気質的に似通うところがあると、常々感じている。

 

―――日本就航便を拡大する理由は?

 

 レヘティオクサVP―日本は売上高や旅客数で、フィンエアーにとって本国フィンランドに次いで2番目の市場だ。昨年5月以降は成田―ヘルシンキ線が1日2便体制に拡大。関西、名古屋、福岡の発着分も合わせると、日本とヘルシンキを結ぶ路線が週34便(注・最大便数は夏スケジュールの間のみ)となり、ルフトハンザドイツ航空やエールフランス航空などを押さえ、欧州エアラインとして日本路線の最大手となっている。

 

―――そこに北海道への就航ということですね

 

 レヘティオクサVP―北海道便にはいろいろな可能性があると考えている。一つは、今や全世界のスキーヤーを虜にしているパウダー・スノーだ。フィンランドにもスキー場はあるが、一度北海道でスキーを体験すると、北海道に何度も行きたくなるという地元スキーヤーの話を聞いた。フィンランドに限らず、ヴァンターを経由するヨーロッパすべてのスキーヤーが歓迎する路線だ。特に北欧すべてと英国には期待している。北海道POWDER SNOWは今やマジック・ワードとなっている。「ニセコでスキーを」というのが欧州のスキーマニアの合言葉だ。札幌雪祭りとも就航期間が被るし、アウトバウンドの可能性は準備段階からある程度手ごたえを感じている。

 

―――17年ぶりの欧州直行便に道民も歓迎ムードです

 

 レヘティオクサVP―成田便は一度北上し、札幌上空を超えてハバロフスク方面に進路をとる。札幌から成田でフィンエアーに乗る旅行者は、まるまるその航路が重複していることになり、そこを省くことができれば時間の短縮、コストダウン、環境へのインパクト緩和にもなる。すでに現地(北海道)のツアーオペレーターがいろいろとパッケージングを考えていると聞いている。例えば冬に限れば、ラップランドのオーロラツアーやサンタランドのツアーは世界的に人気が高い。温泉が好きな北海道人はフィンランドのサウナも気に入るだろう。フィンエアーはJALと提携しているので、直行便には日本人アテンダントを配置し、日本人に配慮したサービス、例えば年配の方々が乗客の中にいる場合は時々声をかけたり、大きな声でおしゃべりしていてもそっとしておくなど、日本の文化に配慮するつもりだ。

 

図示しながらヘルシンキと北海道の距離を力説するレヘティオクサVP

 

―――スキーのほかには何かありますか?

 レヘティオクサVP―一つは、日本独特の文化だ。日本に滞在することによって、Cultural immersion、つまり日本文化にどっぷりと浸かることができる。日本風の宿に泊まり、昼はスキーを楽しみ、スキーから帰ってきて雪見温泉に浸かり、夜はに和食を食べながら日本酒を楽しむ。これは日本以外、いや北海道以外ではなかなか楽むことができないだろう。

 

―――北海道には北海道フィンランド協会他、北方圏地域と地道に交流を続けている団体や個人がたくさんいます

 

 レヘティオクサVP―非常に心強いし、そのような地元の方々を通してAwarenessを啓発していくことが成功のカギを握っていると思っている。地元の方々の力添えがなければ安定的な就航を保つことがむつかしいことは、日本のほかの空港でも経験している。

 

 パイヴィト広報担当―今年の雪まつりで製作されたヘルシンキ大聖堂は国内ニュースでも大きく取り上げられ、映像を見たわ。美しさに感動し、実物を見てみたいと思ったわ。何より、北海道の方々がフィンランドのことを思ってくれていることがとても嬉しい。

 

―――シビアなことを聞きます。成田・大阪はビジネスマン、旅行者、中部はトヨタという巨大企業城下町、福岡も旺盛な旅行需要がある土地柄と成功のキーとなる要素があります。一方、北海道は他地域と比較し経済基盤が強固ではないという地域特性がありますが。

 

 レヘティオクサVP―マーケティング済みだ。まずは試さなければ何も始まらない。今までも色々な障がいがあったが、乗り越えてきた。リーマンショック時や震災の時にも乗客が減ったが、撤退ということは考えなかった。一度その地に飛ばす決定をしたら、何とか頑張るしかない。北海道は勿論だが、例えば東北エリアの需要も若干は見込めるのではないかと思っている。特に新幹線が開通すれば、東京に下って長いフライト時間を選ぶか、札幌に北上して短いフライト時間を選ぶか。運賃が安ければ後者を選ぶ可能性が高いだろう。もちろんビジネスだからすべての選択肢を排除することはできないわけだが。

 

―――ずばり、運賃はどれくらいを想定していますか

 

 レヘティオクサVP―この業界では「運賃ほど予測不能なものはない」とよく言われる。価格は需給のバランスで決まるので、ハイシーズンとそうではない時期の差が出るのは仕方がない。クリスマスシーズンが高くなってしまうのは仕方がないが、今思いついたのは600~700(約77,000円~約90,000円)ユーロを考えている。あくまで自分の頭の中の話だが。

 

―――私が今回利用した便は大体1,000ユーロですので、それに比べかなりお得感がありますね。自分の肌感覚だと10万円を切ってヨーロッパというのリーズナブルなイメージがあります。

 

 レヘティオクサVP―新千歳から成田、成田から新千歳の国内移動費がかからないわけだから、当然ある程度のコストダウンは可能だ。10万円以下には押さえたいと考えている。ただし、何度も言うがハイシーズンは運賃がぐんと上がるだろう。

 

―――最後に新規就航にかける意気込みを

 

 レヘティオクサVP―ヘルシンキは日本から一番近いヨーロッパということをことさら強調したい。それが「北海道」からだとさらにその距離、移動時間を短縮できる。つまり、成田空港よりも近い。すなわち日本で最もヨーロッパに近いのが北海道ということになる。まずはその認識を広めていきたい。使用機材はエアバス330を予定しているが、静粛性に優れ旅行者に配慮した、利用者が疲れにくい機材だ。一時間に何度も換気を行うので、ジェットラグが軽減される。まずは、ぜひ一度は直行便を利用してフィンランドに来てほしい。また、ご存知の通り日本にとってはヴァンター空港はパリのシャルルドゴール空港に次ぐヨーロッパのハブ空港(注・日本からヨーロッパの間の夏スケジュール期間)で、無数の乗継便がある。ヨーロッパそのものが近くなる、そういっても過言ではない。滑走路が3本、ターミナルも2つあり、短い乗り継ぎ時間、最短で35分あればスムーズにトランスファーできる工夫がされているので、旅行ストレスが圧倒的に少ないのも魅力だ。(注・他空港と違い1つのターミナルで乗り換できる利便性が特徴)、(注2・3つの滑走路を備えているので上空で待機することが少なく無駄な遅延を回避可能にしている)

 

 パイヴィト広報担当―現在ターミナル2を大規模改修中で完成すれば、さらに利便性が向上するわ。日本語表記も増える予定で、英語が苦手なパッセンジャーにも利用しやすくなる予定。

 

 レヘティオクサVP―百聞は一見に如かず、是非一度はご利用を!

 

―――新しい知事が誕生しました。ぜひ北海道にお運びください。

 

レヘティオクサVP―ぜひそうしたい。次回は北海道で会おう。

 

パイヴィト広報担当―ヘルシンキ滞在中、是非サウナを楽しんでいってください。

 

 

レヘティオクサVP

 

パイヴィト広報担当

 

 忙しい時間をかなりオーバーして対応いただいたレヘティオクサVPから感じることができたのは、北海道便にかける並々ならぬ思いだ。北海道民として、その強い思いを受け止め、その思いに応えたい。

 

 インバウンド客の数的拡充による経済効果のみに傾注すると、重要な相互交流の側面が抜け落ちる。インバウンド客の数値目標を達成する一方で、サービスの向上、旅行体験の質的向上を目指さなくてはいけない。フィンランドを含むヨーロッパからの旅行者に求められるのは、「多少料金が高くても上質な旅行」という印象を受けている。極端に言えば「安かろう悪かろう」の路線の逆を追求することが、欧州客を引き寄せ、定着させるカギのような気がする。パーキャピタインカムが日本や近隣アジア(※シンガポールを除く)の上を行く欧州の潜在的な旅行者には、アジア近隣からの団体旅行者とはある意味差別化を図る戦略も必要になるであろう。ニセコ地域ではある程度クオリティが高い旅行が期待できるが、すでに飽和状態だ。以前アルペン競技のワールドカップが行われ、雪質もニセコ以上に上質な富良野エリアなどが今後のインバウンドスキーヤーの目的地になる可能性が高い。

 

 さらに、インバウンド誘客のみに固執してしまうと、アウトバウンドが疎かになり持続的な互恵関係を築くことは困難になる。互いの目的地同士が相思相愛でこそ交流人口のバランスが保たれる、とレヘティオクサVPが強調していたとおりである。 

 

 取材を通して、北海道サイドはフィンエアーが飛ばす欧州とのダイレクト・フライトによる種々の可能性の広がりを盛り上げ、周知し、潜在的なアウトバウンド客へのリーチを拡大してゆくことが重要だと感じた。まずは、「ヨーロッパが近くなる、そして安く行くことができる」ことの徹底周知を官民挙げて行い、オール北海道で就航を盛り上げてゆきたい。

 

今年の雪まつりの大雪像にもなったヘルシンキ大聖堂

 

 

 


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